関東信越税理士界へ寄稿『電子帳簿保存法の具体的な実施対応』

群馬県桐生市の税理士 内田です。

関東信越税理士会が発行している「関東信越税理士界8月号」に寄稿いたしました。

内容は、「電子帳簿保存法の具体的な実施対応」についてです。

1.はじめに

 令和3年度の税制改正(以下「R3年度改正」という)において、電子帳簿保存法の大幅な改正が行われた。中小企業や個人事業主でも、電子帳簿保存に十分対応可能となった一方で、小規模事業者でも対応せざるを得ない改正も含まれている。本稿では、このR3年度改正を大きく「電子帳簿等保存に関する改正」、「スキャナ保存に関する改正」及び「電子取引に関する改正」の3点に分けて、小規模事業者を中心に、具体的にどのような対応ができるのか、検討していく。

2.電子帳簿等保存に関する改正

 電子帳簿等保存とは、電子的に作成した国税関係帳簿書類を、電子データのまま保存することを指す。

会計ソフトで作成した仕訳・元帳データを、電子データのまま保存するため、紙への印刷が不要となる。

 R3年度改正以前は厳しかった実施要件が、改正後に大幅に緩和された。大きなところで、税務署長の事前承認が廃止された。

また、いわゆる「優良な電子帳簿」でなくともよい場合は、会計データの訂正・削除を行った事実・内容を確認できる

計算処理システムさえも不要となった。

 電子帳簿等保存については、保存するのが「優良な電子帳簿」か「その他の電子帳簿」により要件が大きく異なる。

(1)優良な電子帳簿

 優良な電子帳簿とは、R3年度改正前の事前承認を受けていた電子帳簿とほぼ同じになり、税務署長への届出書の提出が必要となる。「優良な電子帳簿」であれば、税務職員による、電磁的記録のダウンロードの求めに応じる必要もない。更に税法上保存を求められる帳簿を全て「優良な電子帳簿」での保存が可能であれば、過少申告加算税の5%軽減が適用できる。

 「優良な電子帳簿」の要件である、訂正・削除の事実および内容を確認できる計算処理システムや、検索要件などは、使用している会計システムが対応していれば、小規模事業者であっても概ね対応できる。ほとんどの会計ベンダーで、

対応はなされているようであり、対応ソフトは公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)にて、認証ソフトの

一覧が掲載されている。また、JIIMA認証されていなくても会計ベンダーが独自に対応しているものもある。

 注意が必要なのは、対応可能な会計システムであっても「電子帳簿のオプション」の設定・申込みをしないと使えないことが多い点である。また、会計システムは電子帳簿保存対応のものが多数あるが、たとえば固定資産台帳などは、訂正・削除履歴の残るシステムが現時点ではほとんどないようである。したがって、会計に関するすべてのシステムを「優良な電子帳簿」保存対応にすることは現状ではまだ難しいと思われる。一定の会計ベンダーでは、令和4年中に固定資産台帳も含めたすべての帳簿での優良な電子帳簿対応を予定している。

(2)その他の電子帳簿

 過少申告加算税の5%軽減が適用されないことや、税務職員による電磁的記録のダウンロードの求めも厭わないのであれば、非常に要件が緩和された「その他の電子帳簿」という選択もある。こちらは、ディスプレイ、プリンタ、使用するパソコン本体などを備え付けておくことと、それらシステムの関係書類(仕様書、マニュアル、事務処理マニュアル等)を備え付けて

おくことのみが要件とされている。通常は、事業所にパソコン、ディスプレイ、プリンタ等は備え付けがあり、またマニュアル・仕様書等もベンダーから取り寄せ可能かと思われる。上記のように、電子帳簿等保存は、会計ベンダーの力を借りれば、

十分に対応可能となる。ただし、固定資産税台帳などまだ対応できない帳簿もある。また保存するのはあくまで納税者なので、税理士事務所や記帳代行業者の所在地への保存は認められないことに注意が必要である。

 上記のように、電子帳簿等保存は、会計ベンダーの力を借りれば、十分に対応可能となる。ただし、固定資産税台帳などまだ対応できない帳簿もある。また保存するのはあくまで納税者なので、税理士事務所や記帳代行業者の所在地への保存は認められないことに注意が必要である。

3.スキャナ保存に関する改正

 紙で受領した領収書や請求書などをスキャンして電子的に保存する制度がスキャナ保存である。こちらもR3年度改正で大幅な要件緩和があった。主な改正点は、税務署長の事前承認制度の廃止、タイムスタンプ要件、検索要件の大幅緩和、スキャンした人とは別人による原本確認など適正事務処理要件の廃止などである。

 R3年度改正前は、まず事前承認の段階で大きな壁があり、さらに一人で事業を行っているような小規模事業者では別人によるチェックという相互牽制要件を満たせず、スキャナ保存は中小企業ではほぼ適用不可能であった。しかしR3年度改正により、一人だけの事業所でも対応可能となった。

 具体的には、税務署長の事前承認、適正事務処理要件が廃止されたため、適宜のシステムを使って自主的にスキャナ保存を行えば良いこととなるが、こちらでも、電子帳簿等保存と同じく、会計ベンダーやIT会社のシステムを使うことが大前提となる。

 R3年度改正前の要件であったタイムスタンプ要件に代えて、訂正・削除を行った場合にその事実及び内容を確認することができるシステムの利用ができるようになったが、後者であっても自社でシステム開発することは中小企業では現実的ではない。スキャナ保存についても、会計ベンダーの会計システムを使用することが多いと思われる。

 一例として、ある会計ベンダーの会計システムを使った場合のスキャナ保存を検討してみる。

 まずシステム内の経費精算アプリで写真を撮り、登録する。R3年度改正により、スキャン後、領収書等の同等性を確認した後にすぐ原本を廃棄することが可能となっている。経費精算アプリはそのまま仕訳登録につながるので、システム内で仕訳と領収書の写真が自動で紐付けられる。写真データも会計システム内部に保存される。

経費精算システムを使っていない場合は、スキャンした領収書写真を一つずつ仕訳に紐づける作業が必要となる。また、郵送されてきた請求書などは、スキャンした上で、手作業で仕訳に紐づけることが必要である。

 上記のように、経費精算システムを使わない場合、スキャンデータと仕訳との紐づけという作業は必要となるが、取引量のあまり多くない中小企業であれば手作業でも十分対応可能である。スキャン登録後、同等性を確認すれば、原始証憑はすぐに廃棄することも可能なので、企業の書類整理・保存という煩雑な事務手続きが省略できることの意義は大きいと思われる。

 なお、実務的には、スキャンした後、原始証憑をその場ですぐに廃棄するのではなく、大きな封筒などに入れ、万が一電子データ化できていなかったときのために半年や一年など一定の期間、一時的に保管しておいたほうが運用上安心と思われる。

4.電子取引に関する改正

 メールやwebからダウンロードした請求書等のPDFなどは、紙での保存を認めず、データのままで保存しなければならない、という電子取引に関するR3年度改正は、令和4年度の税制改正で、やむを得ない事情がある場合に2年間の猶予期間が与えられる宥恕規定が設けられることとなった。令和6年からの完全実施に向けて、今のうちから準備をすすめておくことが必要である。

 電子取引に関する改正は、先の電子帳簿保存、スキャナ保存と異なり、企業の選択ではなく、個人事業主を含めたすべての事業者が行わなくてはならないものとなる。それだけに、国税庁でも小規模事業者が対応できるような方策を定めている。

電子取引に関する改正で、タイムスタンプ要件、検索要件は緩和された。タイムスタンプ要件に代えて、データの訂正削除ができないか、その記録が残るシステムの利用、または、訂正削除の防止に関する事務処理規定の備付けがあればよいこととなった。

事務処理規定の備え付けとは、すなわち社内規定の作成とそれに則った運用を意味するので、特定のシステムを使わずとも自社だけで十分対応できるものとなる。

 国税庁が「電子帳簿保存法一問一答」で個人事業主の保存の仕方を以下のように紹介している。

1.日付・相手先・金額をファイル名とする(例:20221031_㈱国税商事_110,000)

2.相手先、各月、など任意のフォルダに保存する

3.訂正削除の防止に関する事務処理規定を作成し、備え付ける

 更に、2年前の売上高が1千万円以下であれば、税務職員からダウンロードの求めがあった際に応じることを条件として、上記1.の規則的なファイル名も不要となる。

 税理士としては、納税者に対して最低限、適宜のファイル名・フォルダへ保存、事務処理規定の備え付けの2点を伝えればよく、新たなクラウドストレージやシステムの契約は必ずしも必要でないため、練習の意味でも、令和6年になる前に前倒しで対応したいところである。

5.おわりに

 電子帳簿保存法の改正を3点に分けて検討してきた。要件が大幅に緩和されたことから、小規模事業者でも十分対応できるものとなった反面、やはり一定のシステムの利用は必要となる。

 たとえ、システムを利用したとしても、例えば固定資産台帳などは電子帳簿等保存への対応は難しいことがわかった。要件が大幅に緩和されたとはいえ、バックヤードの完全な電子化にはまだ、行政、税理士、ベンダーそれぞれの課題が残るところである。

 また電子帳簿保存法への対応は時代の要請ではあるが、目的ではなく手段である。目的はあくまで納税者の利便性・納税者の事業が今よりも良くなっていくことである。国税庁のパンフレット「電子帳簿保存法が改正されました(令和3年12月改定)」においても、「経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、記帳水準の向上等に資するため」とある。

 電子帳簿保存法へ対応することは、ITの力で、バックヤードの省力化を図り、その分、本業へと会社のリソースを振り分けられるようにする、という大きなメリットがある。すなわち、会社発展の非常に強力なツールとなり得るのである。これは、経理・総務まで社長が兼務する場合がある中小企業の方が特に有効性を発揮することになると思われる。

 電子帳簿保存法への対応を目的化してしまうと運用に失敗するおそれがある。我々税理士も、納税者の明るい未来のためを想い、電子帳簿保存対応を行っていく必要がある。

・国税庁 電子帳簿保存法一問一答(https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/4-3.htm

・税務通信 3673号 2021年10月4日

・公益社団法人日本文書情報マネジメント協会 HPhttps://www.jiima.or.jp/